この度、昭和大学心臓外科に成人先天性心疾患センターを開設することになり、2024年4月1日に赴任しました。

日本では年間9000例の先天性心疾患手術が行われ、その９０％以上が救命されており、80％以上の患者さんが成人を迎えています。現在、日本での成人先天性心疾患患者は50万人を超え、その中には手術など何らかの治療が必要な患者さんもおられます。小児期に手術を受けている患者さんがほとんどですが、中には手術が出来ないと言われ経過観察されている患者さんもおられます。岡山大学時代には主治医から手術不可能と言われた患者さんが全国から診察に来られましたが、９０％以上の患者さんは治療可能でした。私が小児心臓外科医を志した１９８０年代には、日本では１歳未満の開心術で３０％以上の患者さんが亡くなっていました。複雑心奇形症例では５０％以上の患者さんが亡くなっており、毎日のように辛い日々を過ごしたものです。幸いにも３０歳代で王立メルボルン小児病院での研修を受ける幸運に恵まれました。そこで恩師となる世界１の小児心臓外科医Roger Mee先生に出会い、私の人生は変わりました。どんな小さな子でも、どんな複雑心奇形の子でも逃げずに手術にチャレンジし、その子供たちの殆どが救命され退院していく現状を見て、何故日本であれほど辛い思いをしたのだろうかと思わずにはいられませんでした。９か月後に思いもよらなかったスタッフ（准教授）に大抜擢され、いつしかMee先生の片腕として佐野がメルボルン小児病院を支えていると世界から称賛されるようになりました。Mee先生は“日本の小児心臓外科は世界に比べて遅れている。日本に帰ってその遅れを取り戻し、多くの日本の子供たちを助けるのも使命かもしれないな。”と言われました。岡山大学に帰国し小児心臓外科チームを立ち上げ、世界1のメルボルン小児病院に追いつくこと、Mee先生に追いつくことを目標にチーム一丸となって頑張ってきました。いつしか年間300例以上の心臓手術を、死亡率１％未満で行い、岡山大学は世界が認める施設になりました。また個人的にも左心低形成症候群に対するSano手術の開発で世界でも認められるようになりました。

2000年代になると心臓外科手術治療の発達、胎児期診断や内科治療の進歩によって日本の多くの施設で救命率は飛躍的に向上し、今や日本では９０％以上の先天性心疾患患者が救命され、80％以上が成人となることが可能となりました。しかし2000年代初頭までは救命することが第1の目的であった為、今でも多くの先天性心疾患手術患者で合併症，遺残症，続発症が見られます。その為、日常生活での制限、子どもでは学校での運動制限などが見られ、このような患者さんには生涯にわたっての経過観察が必要です。しかし現在の最先端医療を知らない先生方から、これ以上の治療は不可能であるとか、治療は非常に難しいから勧めませんと言われ諦めておられる方も多いかと思います。

成人先天性手術で最も多い手術の１つであるファロー四徴症についてお話ししましょう。岡山大学時代に400例以上のファロー四徴症の手術を行いました。30年間で劇症肝炎のため残念ながら遠隔期に1例失いました。また再手術を30例ほど行いました。私の個人的な症例では再手術は５％未満ですが、運動制限を余儀なくされている患者さんは10％前後居られます。このような患者さんでは再手術の適応、時期、またどのような内科的治療、手術をすれば普通の人と同じような生活をすることが出来るかの判断が非常に大切です。

またカリフォルニア大学サンフランシスコ校（UCSF）のBenioff小児病院ではカリフォルニア州北部のエプスタイン病手術のほとんどを行っていました。70人以上の患者さんに手術を行いましたが、今までは治療しても生活は改善しないと教えられていた患者さんたちは、早く適切な治療を行えば毎日の活動は飛躍的に向上することを、身をもって体験され感謝されました。

日本では成人先天性患者さんに対する治療経験は欧米に比べまだまだ少ないのが現状です。私が5年間教授として赴任したカリフォルニア大学サンフランシスコ校では5000人以上の成人先天性心疾患患者さんのフォローをし、年間200例以上の成人先天性患者さんの治療を行っていました。現在の医療では、ほとんどの成人先天性心疾患患者さんでタイミングを逃がさず適切な治療をすれば多くの患者さんは普通の人と同じような生活を送る事が出来ます。これはファロー四徴症患者さんだけでなく、ほとんどの成人先天性患者さんでも同じです。

オーストラリアやアメリカで学んだ世界最先端の治療で、一人でも多くの先天性心疾患患者さんを救命し、皆さまのお友達と同じような生活をさせてあげたいと思い帰国しました。セカンドオピニオンでも、お悩みやご相談でも構いませんので成人先天性心疾患センターにおいでください。